それはまだ、終わりが見えない真夏日のどまん中
外にいるだけでも体力をどんどん奪い、息をする気力さえも無くすような、猛暑の日・・・
昨年の9月上旬のことです
だいひょーが運転する車の中で、スタッフHはただただ無言で
この後、体験することの重大さを感じていました
1頭の犬を保護する為にやってきた保健所
シェルター勤務2年目のスタッフHは、そんな経験はもちろん初めてです
保健所は飼い主に放棄されたり、迷子になってお迎えが来ない犬達がいる場所
そして、処分されてしまう場所
それぐらいの知識は有ったけれど・・・
その中から1頭だけを選んで、連れて帰るという事を自身が果たして出来るだろうか・・・
そんな事ばかりが頭を渦巻いていました
だって、置いて行った子達は、殺されてしまうかもしれないのだから・・・
正直
健康な子なら里親さん、見つかりやすいだろうな
そして、また次に保護出来る子がいるかも
若い子なら、、、
病気が無さそうな子なら、、、
そんな事が頭をよぎった事もウソではありません
もし、体調が悪くて、日々のケアが大変な子を保護したら、
すごく大変だろうな、わたし
休みの日も絶対その子の事ばかり考えてしまって、休んだ気にならないし、
何より里親さん、決まらないかもしれないし、、、
そんな悶々とした思いを抱えて、はじめて踏み入れた保健所の中
その中にはたくさんの犬達が檻の中で家族の迎えを待っていました
目が血走って、大声で爆吠えする子
その陰で怯えて小さくうずくまっている子
もう何もかも諦めて、心を閉ざしてしまっている子
みんな
みんな連れて帰ってあげたいけれど、今のワンドクシェルターのキャパは
1頭だけなんだ
ごめん
本当にごめん
命の選択をどうして私がやらなければいけないんだろう
その中に、ゲーゲーと血の混じった吐瀉物をまき散らし、
よだれをだらだらと垂らし、足元がおぼつかず、すぐに倒れこんでしまう犬がいました

・・・・・・・・・・・・やばい・・・
見るからに、やばい・・・・・
顔の中心には、何度も喧嘩に負けてやられたような深い傷がいくつも有り、
背中には、大きな塊のイボのようなものがジュクジュクとして、
後ろ脚はからまりバッタンバッタン倒れ、吐きすぎて、今にもその勢いのまま
死んでしまいそうな犬
今までの考えていた不安が想像以上に襲ってきます
そんな中、だいひょーは1頭、1頭、すべての犬達を見ていきます
すごいな、、、私なんて目すら見られないよ
だいひょーはどうするんだろう・・・
どの子を連れて帰るって言うんだろう・・・
まさか、あのやばい子じゃないよな
だって、本当にやばいもの
だけど、本当にやばいよな
あの子、ここにいたら、きっとあと数日、いや数時間で死んじゃうよな
聞けば、この猛暑の中、灼熱のアスファルトの上でフラフラに彷徨っていたところを
保護されたらしい
40℃以上の体温で重度の熱中症にかかっていて、、、
あぁ・・・柔らかいタオルを敷いてあげたいな・・・
旋回しているから、段差が無いところで、脚がもつれないように
平らな場所を用意してあげたいな
もっと負担無く、柔らかくしてご飯をあげたら、吐かずに食べてくれるんじゃないだろうか・・・
保健所の職員さんも一生懸命に見てくれているけれど
シェルターに来たら、私があれこれ手を焼いて、つきっきりで見てあげられるのにな・・・
ハッ、、、、、、私ったら、いつの間にか、そのやばい犬を連れて帰ろうとしている、、、
いやいや、やばいよ、
本当にやばいよ、、、
だって、だって、あれも心配だし、これもそれも、、、、、
あっーーーーーーーーー!もうそんな事言っていられないっ!
このままでは、この子、死んでしまう!!!
今までの不安な気持ちと考えは、一瞬で吹っ飛ばされました
だいひょーの後ろ姿を見ながら、
「あの子を選んで!お願い、あの子って言って!」
と、いつの間にか、爪が掌に食い込むほど、力いっぱいお祈りしている自分がいました
そして、、、
「この子、、、このフラフラな白い子、、、
ワンドクで連れて帰ります」
と、だいひょーの足元にいたのは、、、
まぎれもない
私が心の中でやばいやばいと騒いでいた
あの子なのでした

やったぁ、、、
良かった、、、
助かった、、、
(ウソでしょ、だいひょー?以心伝心?!)
いやいや、そうなんです
こんな時にこんな子を見て見ぬふり出来ないのがだいひょーなんです、、、
保健所の職員の方達が
「いいんですか、本当に?!」
「嬉しいです、この子を選んでくれるとは思っていませんでした」
「我々も出来る限りお世話してきたけど、ワンドクさんが看てくれるのなら
心から安心です」
と、喜んでいるのを聞きながら
今日から始まるこの子の犬生第二章は、
私が絶対幸せなものにしてみせると決意すると同時に
命の責任がこんなにも重いものなのか、と今まで感じた事が無い責任感に
押しつぶされそうになるのを耐えるのに必死でした
今まで勉強してきた事をこの子に活かしていくのはもちろん
今まで以上に勉強しないと
今まで以上に犬を看るという事に繊細にならないと
この子と一緒にわたしも今日から生まれ変わるよ
この白い犬は「桜花爛漫」と名付けられました
彼女の犬生のまさにこの瞬間から
花が咲き誇り、これからの犬生が素晴らしいものになる事を願って

今回、私達は桜花爛漫ちゃんを保護したことによって
他の大多数の犬たちを置いて帰ってきました
今、その犬達がどうなっているのか・・・
それは私達にはわかりません
けれど、間違いなく言える事は
もしかしたら貴方の大事な子になるかもしれなかった犬を
私達は助けられなかったという事です
神様でも無いのに、命の選択をしてきた私達の心には
ずっとずっと何年も何十年も、これからもずっと、、、
置いてきた犬たちの声と向けられたその眼差しが離れるという事はありません
それを背負って生きていかなければならないのです
だから
助かって良かったね
ワンドクに保護されたら、あとはもう大丈夫ね
いつまでもワンドクにいれば安心よ
では決して無いのです
何十頭、何百頭の命の上に、桜花爛漫の命は成り立っているのです
彼女の後ろには、その数だけ、助けられなかった犬達がいるのです
だから、だから絶対に
桜花爛漫の犬生をシェルターで終わらせるわけにはいかないのです
命のバトンタッチをしなければ、そしてまた、待っている子達を連れて帰ってこなければ・・・
そしてその後、桜花爛漫を担当する事になったスタッフH
朝から晩まで、仕事の日も休みの日も
桜花爛漫が新たな家族に迎え入れられた時に、
少しでも良い状態でバトンタッチできるようにと誰よりも頑張っています
下痢が続いた時は、本人は夜も眠れず、、、
薬をうまくあげられなくて、どうやったら飲み込んでもらえるのか
何度も何度も目が腫れるほど泣いて、頭が爆発しそうなほど考えて、、、
ご飯が食べられない時は、うまく食べさせられる事が出来ない自分が
悔しくて、血が出るほど唇を噛みしめて、、、
誰よりもここに頑張った人間がいます
バトンタッチの準備はいつでもできています
お願いです
誰か手を挙げてくださいませんか
桜花爛漫の事すべて
食べるもの、薬の与え方、お散歩の仕方、その他たくさんのこと
桜花爛漫が出来る限り負担なく過ごせるように
お伝え出来るスタッフがここにいます

どうかあなたのその手で
命のバトンを私達から受け取ってくださいませんか